日本酒に含まれる有効成分の研究
奥田拓道(愛媛大学教授)
*** 毛細血管の働きを活性化する日本酒 ***
*** 肩こり、冷え性、偏頭痛やストレス解消に効果 ***
 古くから言い伝えられてきた「酒は百薬の長」ということわざに科学的な裏付けを与える研究が相次いでいます。
 先頃、明らかになった、日本酒の血管拡張作用や糖尿病の予防効果について、研究の中心となった愛媛大学医学部の奥田拓道教授にお聞きしました。
 
★アセトアルデヒドに血管拡張作用があるなんて…
  お酒を一気に飲むと顔色が青くなり、ゆったりくつろいで飲むと赤くなる…誰しも思い当たるこの現象、実は血管の収縮と拡張によるものですが、お酒のどの成分がどう作用するのか、これまでそのメカニズムは解明されていませんでした。
 先頃、愛媛大学医学部の奥田拓道教授の共同研究チームによる「日本酒および酒粕に含まれる機能物質の研究」で、日本酒の成分には血管拡張作用があることなどがわかりました。
 アルコールは、体内でアルコール脱水素酵素によりアセトアルデヒドに分解されます。奥田教授の研究チームは、ネズミを使った実験から、アルコールが血管、とくに細動脈を収縮させ、逆にアセトアルデヒドが血管を拡張させる作用を持つことを確認しました。
 これまで脳内の情報伝達を阻害する恐れがあるとされてきたアセトアルデヒドに、プラスの作用を見いだす画期的なものです。
 「一気飲みで顔色が青くなるのは、血中のアルコール濃度が高くなって血管が収縮するため。ゆっくり飲めば、アセトアルデヒドが血管を広げて血流をよくするため顔が赤くなるわけです。この結果からも、アセトアルデヒドができやすいように、くつろいで血管の収縮を抑えるような飲み方が望ましいですね。」
 しかも、奥田教授は「アセトアルデヒドの血管拡張作用は、血中のアルコール濃度がかなり高くなっても変わらないはず」と指摘。酒飲みにはうれしい結果となっています。
 
★ストレス解消に日本酒のアデノシン効果
 以上はアルコール飲料全般にいえる効果ですが、注目したいのは、今回の実験で、日本酒の中にアセトアルデヒド以外にも血管の拡張を促す物質があることが判明したことです。
 そのひとつが、アデノシン。核酸の一種で、生物のRNA(DNA<遺伝子>のメッセンジャー)の中に含まれています。日本酒と赤ワイン、焼酎、ウイスキーそれぞれについて、1ml中のRNAの含有量を調査したところ、どちらも日本酒に圧倒的に多量に含まれていたのです(グラフ参照)。
 血管は、強い驚きや心配事、寝不足などのストレスが加わると収縮します。これは、血管壁に沿って分布している交感神経の末端から分泌されるノルエピネフィリン(ノルアドレナリン)というホルモンの作用によるものです。
 そこで、血管に同量のノルエピネフィリンとアデノシンを振りかける実験を試みたところ、収縮はまったく起きなかったのです。
 「このことから日本酒は、アセトアルデヒドだけでなく、ノルエピネフィリンによる血管収縮を阻止する作用も備えており、しかもその効果は、アデノシンの含有量から考えて、どのアルコール飲料よりも高いことがわかります。
 激しいストレスが加わった時に日本酒を飲めば、ストレスで収縮した血管をアセトアルデヒドとアデノシンが拡張して血液が流れやすい状況をつくってくれるというわけです」
 今回明らかになった血管拡張作用によって、日本酒には入浴やマッサージと同じように筋肉のこりをほぐす効果があり、とくに毛細血管の働きを活性化することがわかりました。
 奥田教授は、「日本酒をゆっくり飲んで血行をよくし、末梢循環を促進することで、ストレスはもちろん、更年期に起きやすい肩こり、冷え性、偏頭痛などの改善につながるはずです」と、日本酒の健康効果を強調されました。
 
★がんに対する抵抗力をつける酒粕の中のグルコサミン
 また、酒粕の成分の中に、がんに対する抵抗力を持つ作用があることも確認できました。そのひとつが、NK(ナチュラルキラー)細胞の活性化作用です。
 NK細胞というのは、血液中にあって、体内に侵入した異物を撃退するリンパ球の一種。がん細胞と正常な細胞とを見分け、がん細胞だけを殺す働きがあります。
 奥田教授のグループは、酒粕の抽出液を、ネズミの脾臓から採取したリンパ球に加え、がん細胞を殺す作用が増強されるかどうかを実験。その結果、酒粕は0.1mg/mlの濃度でNK細胞の活性を明らかに高め、がん細胞を殺す働きが増すことがわかったのです。
 「10倍の1mg/mlでは、NK細胞の活性はさらに高くなりました。これらのことから、酒粕ががんになりにくい体質づくりに役立つ可能性を示していると思います」
 また、酒粕にはがんによる病的な「やせ」を防ぐ作用があることも判明しました。
 がん細胞から分泌されるトキソホルモン−Lという毒素は、体内の脂肪細胞に作用して、中の脂肪をどんどん分解し、さらに脳の満腹中枢を刺激して食欲を低下させます。そのために、がんになると急激にやせてしまうわけです。
 ところが、酒粕の中には、この毒素の働きを阻害するグルコサミンという物質が含まれていたのです。がん毒素の働きをストップできれば、がん患者の急激なやせと、それに伴う体力の低下を防ぐのに大きな役割を果たしてくれるかもしれません。
 さらに酒粕には、糖尿病や肥満など成人病の予防や治療を効果的にする物質があることも、実験で解明されています。
 「糖尿病は、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きが低下することで、体内での物質の合成と分解がうまくいかなくなることから起こります。
 われわれが酒粕の抽出液を脂肪細胞に作用させたところ、脂肪の分解のみを抑制して血糖値を下げるインスリン様の物質が含まれていることがわかったのです。
 そしてこのインスリン様物質の中には、RNA由来のアデノシンのほかにDNA由来のデオキシアデノシンも含まれていました」
 健康を維持する大きな力をまだまだ秘めている日本酒。先ほどのグルコサミンの免疫力に着目して、ヨーロッパではすでにグルコサミン単体でリウマチの薬が開発されているほど。今後の研究次第では、日本酒の新たな効果・効能が期待されています。
 

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