松江の銘酒、豊の秋 - 「豊の秋」醸造元 米田酒造株式会社

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地伝酒どら焼き物語

松江市末次本町に本店を構える「高見一力堂」は創業約二百六十年、松江藩主の御用菓子商を務めていた老舗の和菓子店である。松江藩七代藩主松平治郷は不昧の号で風流茶人として知られており、同社は不昧公好みの和菓子を製造してきた。

(当時の写真)高見和雄社長(右)、高見雅章専務(左)
(当時の写真)高見和雄社長(右)、高見雅章専務(左)

代表的な和菓子「姫小袖」は藩主の用命時にのみ作られる菓子として伝えられたものである。厳選された和三盆と皮むき餡で作られる打ち菓子は繊細な味わいの和菓子である。
2003年2月、今までの進物用ではなく手軽におやつとして食べていただけるものを作ろうという営業スタッフの発案から同社専務高見雅章氏(現在は社長)を中心に社員全員が取り組んだ。素材にこだわり、職人の丁寧な手仕事によって和菓子を製造する姿勢には変わりないが、親しまれる商品によって購買層を広げたいという思いがあった。

伝統を守って和菓子作りに取り組んできた老舗の新しい挑戦の第一歩であった。

地伝酒と出会うまでの道のり

2003年6月、どら焼きの試作を行い、ほぼレシピも出来た頃、専務の雅章氏が東京のスーパーで東北地方の料理酒を使ってお米を炊いたら食感が向上したとの話しを聞く。

当初のレシピではどら焼きにみりんを使用していたが、早速取り寄せて試してみる。みりんよりも甘味が少なく、日本酒に近いものだった。どら焼きには配合が合わない為か期待したような食感の向上は得られなかった。

一度は完成していたレシピを特徴あるどら焼きを作りたいという思いから再検討していくこととなった。特徴ある商品には素材の持つ力を引き出す食材を組み合わせることではないかと地元の食材で「出雲地伝酒」をみりんの代わりに使用してみた。
実際は、どら焼きと地伝酒の出会いでかまぼこや料理のような効果を期待していたわけではなかった。

地伝酒どら焼き試作

 

どら焼きは卵、小麦粉、砂糖の他にみりん、重曹等を加えて配合する。地伝酒は赤褐色の熟成香のある酒で、これをどら焼きに使用するのは製造スタッフの中にためらいの声もあった。
とりあえず「実験」として生地に混ぜ、ミキサーにかけた。焼く前に試食すると、生の生地は香りも良くカラメルソースのような旨みのある液体になっていた。これはもしかしたら化けるぞと期待もふくらむ。

焼き上げてみて驚いたのは、どら焼き特有のこげ茶ではなくきれいなきつね色に仕上がった事だった。心配したアルコール分の残存も、どら焼きの生地はカステラほど厚くないので焼成時に飛んでおり、社長、専務、工場長の下戸の三人組が試食しても問題なく安心した。

 

更にレシピを完成に追い込むため「地伝酒のみ」、「地伝酒とみりん」、「みりんのみ」 など、様々な組み合わせで試作を作ってみた。従業員全員で試食してみたが、地伝酒のみを使ったサンプルが最も良かった。

一般的にどら焼きの中にはみりんを加えるが、みりんを入れると焼き色がこげ茶になり、地伝酒だけの時のようなきれいな焼き色に仕上がらなかった。地伝酒という新しい素材との出会いが和菓子の常識を変えたといえる。
日持ち検査のために、製造10~50日で試してみたが50日経っても違和感なく柔らかいのには作った本人も驚いている。地伝酒を使って調理すると日持ちがよくなるというのは野焼きかまぼこでも実証されている。どら焼きは出来たてよりも2~3日くらい置いた方が餡と生地がなじんで味わい深くなる。

     

地伝酒どら焼き完成へ

 

地伝酒配合のレシピも完成に近づき商品パッケージの案を考える。「和菓子どころと言えば松江!」ということで「松江地伝酒どら焼」という商品名に決定する。
親しみやすさを出すために愛嬌のある「タヌキ」の絵を入れ、松江で歌われている童謡(以下を参照)を書き添えた。

童謡: 雨がしょぼしょぼ降る晩に、豆狸(まめだ)が徳利持って酒かいに、酒屋の角で瓶割って、帰ってお母はんに叱られた。】

地伝酒入りということでアルコールの残存を心配していたが、やはりアルコール臭を感じるという声があった。焼き上がりでアルコール分はかなり減っているが、材料をミキサーにかけてから寝かせることでアルコール臭を改善できた。寝かせることで生地がなじみ生地のつやも良くなった。
みりんを加えない生地は甘味が控えめで餡の良し悪しが分かりやすくなった。そこで備中産高級小豆を使った餡を使用し上品な甘さを出した。地伝酒の持つ潜在力で素材の味を引き出した結果になっている。

「松江地伝酒どら焼」の評判

2003年11月7日の発売開始から2ヶ月間で一万個が売れている。商品の評判は「生地が柔らかい」、 「甘味があっさりとしている」と概ね好評であった。現在、本店と楽山支店にて販売している。その他にも松江駅シャミネ、マルマン各店、ホック各店でも販売している。

東京のデパートの物産展にて出張販売をした際、地伝酒の説明をしながら販売したところ、 商品が完売となり追加で松江から取り寄せての販売となった。料理に使用するお酒を和菓子に使ってみると、上品な甘味と生地の柔らかさが長期間持つようになった。

「松江地伝酒どら焼」掲載資料

地伝酒を使ったどら焼き商品化 【松江・高見一力堂が発売】

 

※山陰中央新報 2003年11月13日(木曜日)

和菓子製造販売の高見一力堂(松江市末次本町、高見和雄社長)は、古くから出雲地方に伝わり、近年復活した料理酒・出雲地伝酒を使ったどら焼き「松江 地伝酒どら焼」を商品化し、売り出した。

同社は今春からどら焼きの商品化を計画。高見雅章専務が別の料理酒の存在を知ったことがきっかけで、地元に伝わる地伝酒をカステラ生地の材料として使うことを決め、六月中旬から試作に取り組んだ。
地伝酒にはアミノ酸が多く含まれており、「こくのある味に仕上がった」(雅章専務)。表面の照りが引き立つうえ、香料を加えなくても、カラメルソース状の香りがするという。アルコール分は焼き上げる際に飛ばして、子どもでも食べられるようにした。
主な材料は砂糖、小豆、小麦粉、卵、地伝酒。一個百三十円。一力堂本店や楽山支店(同市西川津町)、同市内の主要スーパーなどで発売する。
高見社長は「素材の良さには自身がある。厳選した小豆と、地伝酒を使った生地の味を楽しんでほしい」と話している。
地伝酒は戦前まで出雲地方で広く料理用調味酒として使用されたが、戦時中の酒造統制で廃絶していた。十三年前、異業種交流グループ「MATSUE流の会」によって復活。米田酒造(同市東本町)が出雲地伝酒として製造、販売しており、野焼きかまぼこや出雲そばのつゆに使われている。

脈打つ伝統と挑戦 山陰の老舗探訪(53回) 【一力堂(松江市) 創業約250年】

 

※山陰中央新報 2004年1月28日(水曜日)

和菓子製造販売の一力堂(松江市末次本町、高見和雄社長)は、創業約260年。松江藩主の御用菓子商を努め、菓子どころとして知られる松江で、最も古い歴史を持つ和菓子屋だ。高見社長(76)は「素材へのこたわりを忘れず、まじめにきちんと、良い菓子を作ってきたのが店の伝統」と話す。

◆不昧公好みの菓子◆
創業から代々「三津屋」を名乗っていた。初代三津屋作兵衛は御用菓子商。松江藩七代藩主・松平不昧の業績などを記した「松平不昧伝」に、不昧お好みの菓子として、三津屋作兵衛が指名を受け、作ったとの記述があるい。不昧が生まれた1715年には、既に松江で創業していた可能性が高い。
もともとは同市石橋町に店があったとされ、同社に残る和菓子の木型などが、幕末の安政年間以後のものであることから、高見社長は「安政ごろに、現在地に移転し、道具を新調したのではないだろうか」と話す。
同社の代表的な和菓子「姫小袖」は、かつて松江藩主の注文にのみ応じて作られ、一般に売られることを禁じていたという。店内に飾ってある松江藩主松平家の家紋付きの御用達箱が、歴史を物語る。

◆高級素材にこだわり◆
高見社長の祖父に当たる六代目の高見作兵衛氏(出雲市出身)の代から「一力堂」を名乗った。作兵衛氏は大阪で菓子作りを学び、素材を吟味し、徹底して最高級のものを使うことにこだわり、伝統の菓子文化の継承に努めた。現在も、菓子の原材料には、最高級の小豆を使用。素材へのこだわりが、脈々と息づく。
明治期の主力商品は羊羹(ようかん)。小泉八雲が同社の羊羹を好んだといい、5年ほど前には、古文書のレシピを基に、「ハーンの羊羹」を商品化。八雲の孫・小泉時氏が、羊羹の栞(しおり)に一文を寄せている。店の伝統が、明治期の製法の再現を可能にした。
戦時中は砂糖の統制などで菓子を作る量そのものが少なくなり、厳しい時代が続いた。高見社長は戦後の1954年に家業を継ぎ、家伝の製法、伝統の味を守っている。

◆松江地伝酒どら焼◆
94年に帰郷した高見雅章専務(44)は昨年、地元に伝わる料理酒・地伝酒を使ったどら焼きの商品化を手掛けた。専務が別の料理酒の存在を知ったことがきっかけになるなど「偶然が重なった」(専務)結果、誕生した地伝酒どら焼きは、同社のヒット商品となっている。
高見社長は「良い素材を使って、まじめに、きちんと菓子を作ってきたことが、江戸期以来の伝統。代々、優れた菓子職人にも恵まれた。これからも、昔の良いものを、次の時代に伝え残したい。」と話す。
<メモ>
社名は「有限会社高見一力堂」。1950年1月に法人化した。事業内容は和菓子の製造販売。約百アイテムを手掛ける。94年11月には楽山支店(松江市西川津町)を開設。98年には、全国菓子博で茶道裏千家家元特別賞を受賞した。従業員十四名。