『杜氏さんの言葉に学ぶ』より引用【著者:国税庁醸造研究所 伊藤 清氏】

 これは杜氏さんがくやしそうに語る言葉である。そこで、清酒醪から香気成分が散逸する理由を整理してみた。その結果を第1図に示したが、大きく分けて分解、揮散、吸着に分けられると思う。
 吟醸香の主体はエステルであるが、これは水よりも油に近い(疎水的)物質である。清酒は水が主体であり、上槽前には約20%のアルコールを吟有する。アルコールは水よりは疎水的な物質である。水の中にエステルのような疎水的な物質を混合するとエステルは非常に不安定な状態になり、単純に計算される蒸気圧よりもはるかに高い値を示す、即ち蒸発しやすいことがわかった。醪の後半ではアルコールが蓄積するのでエステルは安定化され見かけ上香りが減少したように感じたのであろう。アルコール添加をすれば香気成分はさらに安定する。
 さて杜氏さんの言葉を分析すれば、香りが見かけ上減少する最大の理由はアルコールの生成あるいはアルコール添加によって香気成分が安定化されるためであるこがわかり、このこと事体はそう悲しむことではなかったが、この研究の中で香気成分は思った以上に揮散しやすいものであり醪期間あるいは上槽後も揮散防止が香気成分を保留する上で重要なポイントになることがわかった。

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