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『杜氏さんの言葉に学ぶ』より引用【著者:国税庁醸造研究所 伊藤 清氏】
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実はこのことについては私自身も半信半疑であったが、検討を重ねるうちに香気成分は意外に米粒、即ち酒粕の主成分、に吸着しやすいものであることがわかった。米粒中の吸着部位の一つはタンパク質であることがわかったが、タンパク質は疎水的な部分を有するので、先ほど述べたとおり疎水的な香気成分は吸着しやすいのである。また意外なことに(後から考えれば当然のことでもあるが)香気成分は澱粉にも取り込まれていることがわかった。吟醸香の特徴的な成分には酢酸イソアミルとカプロン酸エチルがあるが、澱粉に取り込まれるのはカプロン酸エチルの方だけであることがわかった。カプロン酸エチルは直鎖状の化合物であるので澱粉中のアミロースに包接作用によって取り込まれるが、枝分かれ構造をとっている酢酸イソアミルは立体構造上取り込まれないのである。アミロースを全く含まないもち米にはカプロン酸エチルは殆ど吸着しない。 カプロン酸エチルはその殆どが酒粕に吸着した状態で存在していた。杜氏の語る言葉では真実であった。吟醸酒造りでは好適米を用い、さらにこれを高度精白して用いるがこの一つの理由はタンパク質吟量を減らし極力吸着量を減らすことにあるとも考えられる。また最近当研究室で飲みながら吟醸酒造り談義をしている間に次のような面白い仮説が提出された。アミロースによるカプロン酸エチルの包接は澱粉がα化され緩んでいる、即ち柔らかい蒸米時に起こりやすい。またαアミラーゼの作用で中鎖長のアミロースが遊離すると直ちに包接化合物が形成される。いったん包接化合物が形成されるとアミラーゼによる作用を受けにくくなり、沈殿し酒粕に移行する。包接化合物が形成しにくい蒸米とは硬い蒸米であるが、これは溶解しにくく糖化を行うためにはより多くのグルコアミラーゼが必要となる。これが吟醸では掛け米の蒸しを締め、また突き破精麹を造ってαアミラーゼに比べてグルコアミラーゼ力価を高める理由である。この説はまだ確かめていないが研究してみる価値がありそうである。 |
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