「島根の民話」を紹介するコーナー
〜 「猿地蔵(邑智郡大和村)」 〜
 なんと、おじいさんとおばあさんとおったげな。
 おじいさんが山へ行って木を切っていたら、手斧を一つ打ち込むと、コケラ(木の屑)が、
   ブンが廻(さこ)へ行けえ
   ブンが廻(さこ)へ行けえ
と言って飛ぶそうな。それでおじいさんがブンが廻へ行ってみたら、猿の住み家があって、猿が甘酒を造っていたので、おじいさんは、その甘酒を飲んでいるうちに、酔っぱらってしまい、そこへ寝てしまったげな。
 夕方になって、猿がもどって来て、
 「こりゃ地蔵さんが寝とってだけえ、堂を造ってあげにゃ」
と言って、猿たちは堂を造り、たくさんのお金や宝物や餅や酒を供えるやらして、おじいさんの地蔵さんを拝んだげな。
 明くる日、また猿は山へ行ってしまったげな。
 おじいさんが目を覚まして、わしは昨日、猿の住み家へ来て甘酒を飲んで寝とっただ。こりゃいなにゃあいけん。こう思って見たところ、たくさんの宝物があるので、それを持って戻ったげな。それからごちそうを作って、隣のおじいさんとおばあさんを呼んだげな。二人はびっくりして、
 「これにゃあ、どげしてあがあにえっと宝物やごちそうを求めなさったかのう」
と言うので、おじいさんが昨日の話をしたげな。
 隣のおじいさんとおばあさんは、帰ってから、こう相談したげな。
 「おじいさん、明日、あんた行きなさい。そして猿の所で宝物をもろうて戻りんさい」
 「そりゃあ、そがあしよう」
 次の日、隣のおじいさんが山へ行って、木を切っていると、またコケラが
   ブンが廻へ行けえ
   ブンが廻へ行けえ
と言って飛ぶげな。
 それでおじいさんが、またブンが廻の猿の住み家へ行ってみたら、前のように甘酒が造ってあったので、それを飲んで寝ていたら、晩になって猿たちが帰ってきて、
 「おいどれくそ、昨日のくそじじいが来やがった。地蔵さんと思ったらそうじゃなかった。盗人だった。今日はこらえておかんぞ」
と言うが早いか、そのおじいさんをたたき殺してしまったげな。
 だから人真似はするものじゃあないと。
(大和村昔話集稿巻一)
※「酒学事始」より引用させていただきました。発行元:(株)プロジェクト、著者:酒井董美